ポジティブ心理学で育む現実的な楽観性 失敗を恐れないための習慣
失敗を恐れるあまり、新しい一歩が踏み出せなかったり、やりたいことを諦めてしまったりすることはありませんか。過去の経験や周囲の評価が気になり、「どうせうまくいかないだろう」と考えてしまうこともあるかもしれません。
私たちは皆、多かれ少なかれ失敗を避けたいと思うものです。それは自然な感情ですが、その恐れが行動を制限し、自分自身の可能性を狭めてしまうとしたら、少しもったいないことかもしれません。
もし、失敗が起きても立ち直れる、あるいは失敗を恐れずに挑戦できる自分になれたら、目の前の景色はきっと変わるはずです。この記事では、ポジティブ心理学の知見に基づいた「現実的な楽観性」という考え方と、それを日々の生活に取り入れるための具体的な習慣をご紹介します。
現実的な楽観性とは
ポジティブ心理学において、楽観性とは単に「全てうまくいく」と根拠なく信じることではありません。特に私たちが大切にしたいのは、「現実的な楽観性」です。
現実的な楽観性を持つ人は、困難や失敗が起こりうることを認めつつも、良い結果が得られる可能性に目を向け、そのために行動を起こすことをいとわない傾向があります。悲観的に考える人は、失敗の原因を「自分の能力がないからだ」「いつもうまくいかない」のように、永続的で自分自身のせいだと考えがちです。一方、現実的な楽観性を持つ人は、失敗の原因を「今回は準備不足だった」「やり方が合わなかった」のように、一時的で特定の状況によるものだと捉えやすい傾向があります。
この考え方の違いが、その後の行動に大きな影響を与えます。「どうせダメだ」と思って諦めるのか、それとも「次は別の方法を試してみよう」と立ち上がるのか。現実的な楽観性は、失敗を恐れずに再び一歩を踏み出すための、心の推進力となるのです。
失敗を恐れない現実的な楽観性を育む習慣
では、この現実的な楽観性を日々の生活の中で育むにはどうすれば良いのでしょうか。ここでは、ポジティブ心理学に基づいた具体的な習慣をいくつかご紹介します。どれも特別なスキルは必要なく、日常生活の中で簡単に試せるものです。
習慣1:ABCDEモデルで考え方の癖に気づく
これは、ポジティブ心理学の創始者の一人であるマーティン・セリグマン氏が提唱する、悲観的な考え方に対処するためのモデルです。失敗や困難に直面したとき、私たちは無意識のうちに特定の考え方をします。この考え方に気づき、より現実的で前向きなものに変えていく練習です。
- A (Adversity: 逆境):困難な出来事や失敗を客観的に記述します。例:「企画のプレゼンがうまくいかなかった」
- B (Belief: 信念):その出来事に対して、自分がどのような考えや信念を持ったかを書き出します。悲観的な考え方になっていないか注意します。例:「自分にはプレゼンの才能がない」「やっぱり自分は何をやってもダメだ」
- C (Consequence: 結果):その考え方によって、どのような感情や行動の結果が生まれたかを記述します。例:「落ち込んで何も手につかなくなった」「次の機会に尻込みしてしまう」
- D (Disputation: 論駁/反論):悲観的な信念に対して、客観的な証拠や別の可能性を基に反論します。「本当に才能がないのか?」「他の要因はなかったか?」と問いかけ、別の解釈を探します。例:「今回は準備時間が少なかったかもしれない」「相手の関心が別のところに合った可能性もある」「以前うまくいったプレゼンもあった」
- E (Energization: 活性化):反論によって、考え方がどのように変化し、どのような感情や行動のエネルギーが湧いてきたかを記述します。例:「落ち込みが和らいだ」「次はもっと準備をしてみようという気になった」
最初は紙に書き出すなどして練習してみましょう。慣れてくると、心の中で素早くこのプロセスを行えるようになります。悲観的な自動思考に気づき、それに反論する練習をすることで、失敗に対する捉え方が徐々に変わってきます。
習慣2:小さな成功やポジティブな出来事に目を向ける
私たちはネガティブな出来事に意識が向きやすい傾向がありますが、意識的にポジティブな側面に目を向ける練習をします。
- 一日の終わりに、その日にあった「良かったこと」「うまくいったこと」「感謝できること」を3つ以上書き出してみましょう。大きなことでなくて構いません。「美味しいコーヒーが飲めた」「移動がスムーズだった」「誰かに親切にできた(された)」など、どんなに小さなことでも大丈夫です。
- このとき、ただリストアップするだけでなく、「なぜ良かったのか」「それについてどう感じたか」を少し書き加えてみると、より効果的です。
この習慣は、私たちの脳がポジティブな情報を受け取りやすくする「ポジティブ感情」を育むだけでなく、「良いことは起こりうる」「自分にもできることがある」という実感を与えてくれます。これが、未来への期待感や楽観性を高めることにつながるのです。
習慣3:未来の「うまくいった自分」を具体的に想像する
失敗への恐れは、しばしば未来へのネガティブな想像から生まれます。「もし失敗したらどうしよう」「笑われたらどうしよう」といった不安が頭の中を支配してしまうのです。そこで、意識的にポジティブな未来を想像する練習をします。
- あなたが挑戦したいことや、達成したい目標について考えてみましょう。
- もしそれが「うまくいった」としたら、どのような状況になっているでしょうか? どんな景色が見えるでしょうか? どんな音が聞こえるでしょうか? どんな気持ちを感じているでしょうか?
- できるだけ五感を使い、詳細に、まるでそれが今起こっているかのように鮮明に想像してみてください。
- それを日記に書いたり、絵や写真で表現したりするのも良い方法です。
この「最良の自己(Best Possible Self)」を想像するワークは、希望を高め、行動へのモチベーションを湧かせることが研究で示されています。失敗の可能性を考えるのではなく、成功したときの喜びや達成感を先取りして感じることで、挑戦への一歩を踏み出しやすくなります。
小さな一歩から始めてみましょう
ここでご紹介した習慣は、どれもすぐに完璧にこなす必要はありません。まずは一つ、興味を持ったものから試してみてください。一日数分でも構いません。
大切なのは、「完璧にやろう」と意気込むことではなく、「まずはやってみる」という小さな一歩を踏み出すことです。そして、もし習慣が続かなくても、自分を責める必要はありません。「今日はできなかったな。明日また試してみよう」と、現実的な楽観性を持って受け止めてみてください。
現実的な楽観性は、練習によって誰もが育むことができる心の力です。これらの習慣を日々の生活に少しずつ取り入れることで、失敗への恐れを手放し、希望を持って前向きに行動できる自分に近づいていくことができるはずです。
小さな一歩が、未来を変える大きな力となります。応援しています。